第29章 崖から転落

杉浦杏奈は灰原仁司の後ろについて、およそ十分ほど歩いたところで、不意に口を開いた。

「灰原社長、わたしのペースに合わせなくて大丈夫です」

灰原仁司は振り向きもしなければ、足も止めなかった。

杉浦杏奈は二歩ほど歩幅を速め、彼と肩を並べる。

「本当に。そんなにゆっくり歩かなくていいです」

さっきから気づいていた。灰原仁司はときおり歩調を落としている。周囲を警戒しているように見えて、実際は彼女を待っていたのだ。

ようやく灰原仁司が横目で彼女を見た。

呼吸は乱れていない。額に汗ひとつ浮かべず、足取りも軽い。まるで平地を散歩しているみたいだった。

この数日、島での様子はずっと見てきた。...

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